茨城県大子町――福島県との県境にほど近い、山あいの自然豊かなこの地で、いま全国的に注目されているある「相続問題」が起きています。
そのキーワードは「メガ共有」。聞きなれないこの言葉が意味するのは、数十人規模で相続人が不動産を共有している状態。その数、なんと59人――。
この異常とも言える状況が発覚したのは、2025年5月23日放送の日本テレビ系「情報ライブ ミヤネ屋」にて特集されたことがきっかけでした。番組では、大子町に移住した後藤学さん(48)と、相続人の一人である向仁子(むかい・にこ)さん(55)の実情が紹介され、視聴者の大きな関心を集めました。
山奥の旧家に住む後藤学さん一家
舞台となったのは、明治元(1868)年にはすでに存在していたという古民家。現在、この家には地域おこし協力隊として移住してきた後藤学さん一家6人が暮らしています。
つくば市から移住してきた後藤さんは、「家族で田舎暮らしをしたい」と、2022年に大子町へ。任期終了後もこの空き家を借りて生活を続けています。
「ニワトリとヤギが増えてしまって……(笑)」と語る後藤さんの表情からは、田舎暮らしの穏やかさと豊かさがにじみ出ていました。
しかしこの家には、後藤さんをも巻き込む「大問題」があったのです。
実家の相続人が59人!?「メガ共有」という落とし穴
後藤さんが暮らす家は、実は向仁子さんの母(83)の実家にあたります。
つまり、仁子さんにとっては祖父母の代からの旧家。
しかし、相続の手続きを進めていく中で、驚愕の事実が発覚しました。
それが「相続人が59人にのぼる」ということ。これは、不動産の所有者が代を重ねて亡くなっていく過程で、相続登記がされないまま時間だけが経過し、血縁者が次々に法定相続人として増えていったために起きた現象です。
仁子さんが登記簿を調べたときの驚きは相当なものでした。「これは大変なことになっている」と、その瞬間を振り返ります。
なぜ相続人が59人にもなったのか?
原因は、日本全国で問題となっている「所有者不明土地問題」と深く関係しています。
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代々相続登記をしてこなかった
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地方の農家では、不動産を「家のもの」として登記変更せずに代々引き継いできた例が多くあります。
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相続人が日本各地に散在
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子どもたちが都市部へ移住し、遠方で生活。相続意識も希薄に。
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不動産の価値が下がって「負動産」に
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山林や使われない田畑など、手放したくても処分にお金がかかる場合もあり、放置されがち。
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このような理由が積み重なり、「もはや誰のものとも言えない」不動産が各地で増えています。
「母の実家」相続に潜む、現実的な壁
仁子さんたち家族が相続しようとしている不動産には、使っていない田畑や境界不明の山林など、合計で102筆にも及ぶ土地が含まれていました。
蔵や離れといった建物もあり、管理・草刈りなどの維持すら一苦労。「何が入っているか分からない」蔵も存在し、物理的にも精神的にも負担が大きいのです。
さらに追い打ちをかけるのが、「100年前に設定された抵当権」の存在。相続登記のためには、こうした過去の権利関係まで精査し、ひとつひとつ処理しなければならないのです。
2024年から相続登記が義務化
このような「放置された相続」の問題に対応すべく、2024年4月から相続登記が義務化されました。これにより、死亡後3年以内に相続登記をしなければならず、怠れば10万円以下の過料が課せられます。
ただし、義務化されたとはいえ、相続人の人数が多すぎるケースでは、実際の手続きが非常に困難なのが現状です。
仁子さんは、「このままだと、自分たちも子どもたちに『面倒な財産』を残すことになってしまう」と危機感をあらわにしています。
後藤学さんの「今後の暮らし」にも影響
空き家を借りて住んでいる後藤さん一家にも、メガ共有の問題は無縁ではありません。
本来、地域の空き家を有効活用してくれている「理想的な移住者」の後藤さん。しかし、この家の所有者が明確に定まらない限り、将来的に住み続けられる保証はないのです。
「いつか買い取りたい気持ちもある」と語る後藤さんにとっても、59人の相続人を探し、全員と交渉を重ねるのは現実的ではありません。
ミヤネ屋放送で注目が集まる
2025年5月23日、「ミヤネ屋」ではこの問題を取り上げ、「メガ共有」というテーマで特集を放送。後藤学さん、向仁子さんらの実情に加え、専門家の解説も交え、「所有者不明土地の背景と課題」について議論が交わされました。
放送後、SNSでも大きな反響があり、
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「うちの実家も他人事じゃない」
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「登記なんて考えたことなかったけど、やばいかも」
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「地方の空き家問題って本当に深刻なんだな」
といった声が多数寄せられました。
まとめ:メガ共有は「未来の日本の縮図」かもしれない
今回のケースは、決して特殊な事例ではありません。相続登記の放置、不動産価値の下落、相続人の増加……これらが積み重なれば、誰のものか分からない「負動産」が生まれ、次世代にツケが回るのです。
後藤さんや仁子さんのような「現場にいる人々」の声がもっと広まり、法制度や支援体制が整備されていくことが、今後の課題でしょう。
「使わせてもらって本当にありがたい」と語る後藤さんの姿は、この国の「地方と不動産の未来」の象徴とも言えそうです。
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